トライアスリート・トレーニング・バイブル(後編)
“トライアスリート・トレーニング・バイブル”
トライアスロンの本はいくつも読んできましたが、これを超える本に出会ったことはありません。
トレーニング方法から、計画、戦略、体調管理、メンタルの強さまで、トライアスロンの競技力向上に関わるあらゆる要素が網羅されています。
まったくの素人だった自分のトライアスロンの知識を一気に引き上げてくれたのがこの本です。
初心者からエリートまで、老若男女すべてのトライアスリートに知っておいてほしい内容です。
- 本の概要(前編)
- 練習強度の考え方(前編)
- ピリオダイゼーションの考え方(前編)
- 競技のテクニック
- 食事
前編はこちら
4. 競技のテクニック
本書では「エコノミー」という単語が何度も出てきます。
最大出力を上げるのではなく、変換効率を上げる。
ゴルフでいうと、腕力を鍛えるのではなく、重心の移動や腰、肩の回転、インパクトの瞬間の力の入れ方を改善するということです。
同じ筋力であっても、身体の使い方で飛距離がまったく変わってきます。
これがエコノミーです。
ちなみに僕は全然飛びません。
<スイム>
速く泳ぐためには、無駄のない姿勢をとり水の抵抗を減らすか、運動能力を強化して推進力を高めるか、の2択です。
空気より1000倍も密度が高い水の中では、推進力を増やすより抵抗を減らす方が効果的であるとされています。
長い距離を泳ぎこみ、推進力を高めようと水と戦っても記録は伸びません。水を打ち負かすのではなく、テクニックを磨き、できる限り少ない消費エネルギーで水のなかをスライスするように進むのです。
スライスするように泳ぐためには何が必要なのでしょうか。
- ダウンヒルスイミング
スイム初心者の人は、泳いでいるときに脚が沈みがちです。
脚が沈むと、前進するための抵抗となり、漕いでも漕いでもなかなか進みません。
これを克服する姿勢のとり方がダウンヒルスイミングです。
脚が沈むということは水中で重心が下半身よりになっているということです。
だから上半身にもっと重心をかけましょう。
という考え方です。
水中で自分の胸に寄りかかり、胸部を腰や脚よりも押し下げるつもりで、ダウンヒル(滑降)の姿勢をとります。
すると前から見たときに、面積が小さくなり、抵抗少なく泳ぐことができます。
本書では「ブイを押す」という表現をしています。

「ブイ」を押す
水中動画を撮って驚いたのですが、自分が思った以上に脚は沈んでいます。
前転してひっくり返るくらいのイメージを持って泳ぐくらいがちょうどいいのかもしれません。
僕はこの押し下げる感覚がまだまだつかめず、伏し浮きすらできません。
ダウンヒルスイミング修行中です。
- 身長を伸ばすように泳ぐ
エントリーのときに指先を遠くに伸ばします。
するとストローク長が伸びます。
ストローク長が伸びると、細かくバシャバシャ泳ぐよりも水の抵抗が減ります。
また、下半身についても膝をあまり曲げずに、腰から力を伝えるキックをします。
するとさらに抵抗が減ります。
このとき身体が細長く伸びているため、これもまた投影面積が小さい状態となります。
エコノミーの高い泳ぎです。
これらを意識して、スライスするように泳ぎましょう。
うーん、きれい。惚れ惚れします。
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Sun Yang Technique – multi angle camera – loop
<バイク>
バイクで効率良く走行するために、バイク側と人体側の双方にすり合わせるポイントがあります。
どちらの改善も大切です。
- セッティング
バイクと人体が接触する箇所は、サドル、ハンドル、ペダルの3つです。
これらの位置調節が、快適さや力の入りやすさに大きく影響します。
本書では、サドルを上下前後に動かして身体にフィットさせる方法や、レース距離別のハンドルバー高さの推奨値、クリートの位置と推奨クランク長、などが紹介されています。
読んで思ったことは、
「バイクショップに任せよう」
でした。
正直自己流の調節は危険かと思います。
本書にはクリート位置についてこのように書いてあります。
クリート位置をシューズやクリートが許す限り、かかと側に下げて取り付けてみましょう。ほんの1/4インチ(約6mm)程度のことですが、腓腹筋の仕事量はいくらか減らすことができます。
僕はこの本を読んで、書いてあるままにクリートを限界までかかと側に寄せました。
そしてバイクショップで調整していて店員さんに言われたことが、
「これは後ろにつけすぎです。外国人は足の指が長いから、何も考えずにクリートを取り付けるとつま先側になってしまうんです。指の短い日本人がそれをやっても、クリートが後ろになりすぎて力が入らなくなるだけですよ。」
なるほど。。
確かに著者のジョー・フリールさんはアメリカ人だ。。
ということでセッティングは大事。ですがバイクショップに任せましょう。
- ペダリング
ペダリングの動きは単純な円運動に見えて、様々な筋肉が相互作用する複雑な運動です。
エコノミーを高めるには接線方向に力を加えて、無駄なく力を伝える、または逆方向にかかる力を打ち消すことが必要です。
円運動をする中で、大きく分けて3つの局面があります。
0時から5時:かかとを若干落として踏み込む
5時から9時:かかとを上げて足を後方に滑らせる(動物が足で地面をかく動作)
9時から12時:かかとを下げて次の踏み込みに備える
これらを意識し、スムーズに移行できるように練習するとよいです。
<ラン>
無駄の少ないランニングフォームとはどのようなものでしょうか。
考え方の基本は、重心がブレないことです。
- 威厳のある姿勢
あご、肩、股関節がまっすぐになると、体幹をぶらさずに走ることができます。
本書ではこれを「威厳のある姿勢」と呼んでいます。
首が前に出ていたり、腰が後ろに出ていたり、姿勢が悪いと体幹を通して力が伝わりません。
その場合、脚力だけに頼って走ることになります。
こんな感じの姿勢とテンションで走りましょう。

威厳のある姿勢
- ストライド走法かピッチ走法か
ランニングはストライド長を伸ばすか、ピッチを速くすることでスピードを上げることができます。
どちらを重視すべきなのでしょうか。
まずストライド長を伸ばすと、一歩で大きく進むためスピードが上がります。
しかし歩幅を増やすためには、脚をを大きく開き、飛び跳ねるように走ることになります。
すると重心の上下動が起こるため、込めた力が上下運動に失われてしまいます。
また着地の衝撃が大きくなり、怪我のリスクが高まります。
次にピッチを速くすると、当然スピードも上がります。
速いピッチだと接地頻度が高く、上下動が小さく抑えられます。
すると運動のロスも少なく、怪我をする危険性も軽減できます。
ということで、まず重視すべきはピッチです。
重心がブレないように、威厳のある姿勢とピッチを意識します。
こちらもきれい。
姿勢良く、ピッチが速い上で、ストライドも長い。
とても真似できないですね。
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5. 食事
本書では食事もトレーニングの一部として位置づけられています。
理想的な食事のヒントは旧石器時代にあるといいます。
我々をとりまく食の環境は時代に伴い大きく変化してきていますが、我々の遺伝子が求める食物はさほど変化していません。
我々は何を食べたらよいのでしょうか?簡単に言えば、200万年前、我々の祖先が食べていたものです。つまり、赤身の肉(できればジビエまたは放牧された動物の肉)、魚、鶏肉、貝類、新鮮な野菜や果物です。
原始人っぽい食生活をすればよいということですね。
本書では、タンパク質、脂肪、炭水化物、水に分けて摂取量や食品を紹介していますが、一貫していることは「原始人っぽく」です。
加工食品より食材が見えるもの、清涼飲料より水。
自然の力を取り入れましょう。
ただし例外的に、プロテインだけは推奨しています。
旧石器時代どこいった。
まとめ
この “トライアスリート・トレーニング・バイブル” は自分のトライアスロンへの取り組み方を一変させました。
時間を見つけて、3種目まんべんなく練習できたらいいかな
としか捉えていなかったところから、
目標を掲げ、時期ごとの練習計画を立て、レースに向けてコンディションを整え、当日の展開を思い描くようになりました。
全てのトライアスリートに自信をもっておすすめできる一冊です。
前編はこちら
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